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[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 028. まつむらまいこ - きょうは もう ねます

[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 028. まつむらまいこ - きょうは もう ねます

ねむりを愛するすべての人に

小学生の頃、不眠症気味だった私は眠るのが苦手でした。無駄に考えごとをしたり、精神が昂っては寝つけなくなり、眠れないことへの焦りや不安と罪悪感を抱えたまま朝を迎えることがありました。またあるときは金縛りにあい、部屋の暗がりも「眠る」という行為自体も怖くなってしまったり。
大人になってからは、「夜」というものに異常に魅せられて、夜という言葉から広がるイマジネーションや秘密めいた雰囲気がたまらず、その時間にものを作ったり、星を見上げたり、寝静まった家々の屋根を眺めたりして、眠らずに夜の終わりが来るまで見届けていたい…なんて思っていたこともありました。
そんな私ですが、今は眠るのが大好きです。
眠らずにはいられないくらい現実的・肉体的に疲れているというのもありますし、多分それは一番手っ取り早くてあたたかな逃避場所なのだと思います。
冬の楽しみは、お風呂であたたまり、ポカポカの身体のままふとんに潜り込むこと。信州の厳しい冬を乗り切るために導入したふわふわの毛布にくるまれると、それはもう大変な至福の時間なのです。ふとんに潜ってしばらくすると眠気に襲われ、目を瞑るといつの間にか眠りの世界に行っている… そこには現実世界の煩わしさはありません。
前置きが長くなりましたが、そんな、一日の終わりに誰もが駆けこむことができる小さな教会のような場所=「ねること」について美しく描いた絵本があります。
『きょうは もう ねます』は、2013年にまつむらまいこさんが自費出版されたものを月風灯舎さんがハードカバーで刊行した2025年の新装版。
まず、心を奪われるのは表紙です。そのままでも美しいまつむらさんの絵に、特殊箔で描かれた星座がキラリと輝き、重奏的な美を響かせます。
そして表紙をめくると迎えてくれる、見返しの青色のグラデーションには唸らされました。濃紺から淡く薄れてゆくブルーは、現実世界の夜から夢の中へといざなうよう。無意識の世界へ、至福の光へと呑み込まれる瞬間のように見えます。この見返しから2枚の扉へと流れる時間表現のすばらしさは、手にした方ならおわかりいただけるはず。そして絵の一点一点、1ページ1ページの繊細な美しさには思わず溜息が。
私は残念ながら私家版には出会えなかったので比べることはできないのですが、新装版の制作にあたり、作者のまつむらさんご自身と、発行者、印刷所、それぞれの工程に関わられた方たちが込められたであろう大きな愛情を感じる一冊です。大切な友人や自分に、贈り物にするのも素敵だと思います。
人の一生にはさまざまなことが起き、幸せな気持ちの日もあれば、後悔や不安に苛まれたり、淋しくてたまらない日もあるので、この本の中で眠りにつく人や生き物たちは、別々の登場人物のようでいて、ある日の自分のようにも思えます。
ただ、先日、戦火を生きる子どもが「夢をみるのが怖い(怖い夢をみるから)」と言っているレポートを見て心が痛みました。眠りを司る神様がいるのなら、せめて眠っているあいだだけは悲しいことも怖いことも起きないよう彼らを守ってほしい。眠っている間に大人たちが世界中の争いごとを解決することができればよいのですが…
どんな一日だったとしても、眠りの世界はきっとやさしく、どこにでも行くことができる。
きょうも、どこの誰もが、あたたかな居場所で良い眠りにつけますようにと願わずにいられません。

まつむらまいこ - きょうはもうねます

まつむらまいこ - きょうはもうねます | 新装版 

Artwork:   まつむらまいこ(絵)  松村真依子・Sawani Morioka(デザイン)
Format:   book, hard cover
product no. :     978-4-9914501-0-5 C8795

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文・写真 / 荒澤文香 fumika arasawa

デザイナー

フリーランス ⇄ 会社勤務、ときどき友人たちのお手伝いもしています。
2024年 松本に移住。

Instagram: @fumika

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WALLFLOWER CATALOGUE(ウォールフラワー・カタログ)

デザイン心ゆさぶるアートワークの数々をデザイナーの荒澤文香さんが毎回1 点ずつご紹介。
毎月1回。2度目の二十四節気のタイミング(20日前後)で更新予定です。

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