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WALLFLOWER CATALOGUE FILE.37: Whitney - Forever Turned Around

WALLFLOWER CATALOGUE FILE.37: Whitney - Forever Turned Around

Used To Be Lonely

少しの間、音楽が聴けなかった時期がありました。
愛猫を看取った2019年、所謂ペットロスでうつ病の一歩手前くらいだった時のことです。

片手に乗るくらい小さな、生後2週間ほどの時期に私と暮らすことになったココア(愛称:ココ)は、アメショー混じりの雑種のキジトラでした。
出会った時は赤ちゃん、そして甘えん坊の小さな妹になり、やがて親友、パートナーとなり、時には母のようで祖母のようでもあった、あらゆる関係性を凝縮したような存在。
私が自分ではじめて迎えた家族、そして、はじめて看取った家族でもありました。

人間でいうと90歳くらい。それなりに大往生とはいえ、病院通いなどをする間もなく急に訪れた家族の死。人生の大半を一緒に過ごした存在を失ったことは大きくて、時間が解決してくれるとわかってはいても、ふとした瞬間に思い出しては涙が溢れる日々でした。友だちと会っても、楽しい場所に出かけても、さまざまな繋がりの方々に気にかけていただいても、一人の部屋に戻ると「不在」という大きなものに部屋も自分も呑み込まれてしまって、永遠に出てこられない気がしました。

その時期はどんな音楽を聴いても、水なしで錠剤を飲みこむような喉につかえる違和感がありました。
音数の少ないアンビエントしか聴けないことはままあるのですが、音楽そのものを聴けないというのはあまりなかったことで、自分がいっぱいいっぱいになっていることだけはわかりました。小さな頃から大好きだったはずのものを楽しめないのは、とても悲しくて怖いものです。思いかえすと、心がぱんぱんだったので、何かが琴線に触れることで溢れだしてしまうのが怖かったのだと思います。だから、耳を閉じていた。

状態として生きてはいるのだけれど、感覚としては死んでいるような喪の日々。ヒトの紡いだ旋律や歌、言葉、音楽という芸術、それらを聴いて楽しむことはごくごく自然であたりまえのことだと思っていたけれど、決してそうではないのだと気がつきました。

そんな時でも、鳥や虫の声、木々のざわめきや雨音など自然界の音が聞こえると、自分がまだここに居て、この世界に生かされているのだと感じられました。

喪の日々が1〜2ヶ月続いた頃でしょうか。
ある日タイムラインに流れてきた、アメリカのインディーバンド Whitneyの短いビデオ ーそれは"FTA"というタイトルで、彼らの2ndアルバム "Forever Turned Around"のティザームービーだったのですがー そのあまりの美しさに惹きこまれ、久しぶりに「もっと聴きたい」という欲求が生まれました。
爪弾かれるギター、あたたかな音色、Julien独特のファルセットの情感もさる事ながら、バンドメンバーのJosiahの撮ったビデオの夕暮れにも夜明けにも見える儚い光と、流れてゆく美しい風景が染みいり、その映像だけで何十回再生したかわかりません。

 

 


そうして、待ちに待って夏の終わりにリリースされた新譜が、今回ピックアップしたレコードです。ティザーの期待を裏切らない、あたたかでメランコリックな美しい作品でした。

カバーアートもとても良いのです。シカゴの現代美術家 Sofia Machtによるペインティングは「結露した草」がモチーフだという記事を目にしたのですが、夜明けに結露した草にも、星空の下の針葉樹林にも、水底に揺らめく藻のようにも見えて、見る人のイメージに委ねてくれる。ジャケットも含めたアルバム全体に、個人にしかわかり得ない感情や独白を受け止めてくれる余白があると思います。

悲しみや苦しみを携えたまま生きてゆかなければならない世界にも、眩しいような美しい瞬間はいくつもあって、それは初秋の儚い光に似ています。
これから訪れる冬にも、過ぎ去った日の悲しみの記憶にも、小さな灯火があれば歩いてゆける。暗闇だけではないことを思い出させてくれる。

誰の手にもそんな灯りがありますように。

Whitney

Artwork:   Sofia Macht
Format:   LP, Forest Bark vinyl
product no.(or ISBN) :   656605037738

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文・写真 / 荒澤文香 fumika arasawa

デザイナー

フリーランス ⇄ 会社勤務、ときどき友人たちのお手伝いもしています。
2024年 松本に移住。

Instagram: @fumika

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WALLFLOWER CATALOGUE(ウォールフラワー・カタログ)

デザイン心ゆさぶるアートワークの数々をデザイナーの荒澤文香さんが毎回1 点ずつご紹介。
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