![[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 023. | ‘FOUND:THE ROLLING STONES’](http://rovakk.com/cdn/shop/articles/023.jpg?v=1755907190&width=2000)
[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 023. | ‘FOUND:THE ROLLING STONES’
満足なんてできないぜ
立秋が過ぎていよいよ処暑。束の間の涼しさののちに残暑に見舞われている松本ですが、朝晩は少しだけ過ごしやすくなってきました。永遠につづくような暑さも蝉時雨も、歳を重ねたせいなのか、あっという間に過ぎてゆく気がします。
この夏生まれた蝉たちに来年ふたたび会うことは叶わないように、この夏はただ一度だけ。
夏に限らず、その一日もその季節も、誰にとっても一度かぎりの特別なものですが…
今日は、今から60年前まで時計の針を戻してみましょうか。
「1960年代」という言葉の響きはロック好きにとっては憧れのようなものもあるのではないかと思います。とりわけ1965年は象徴的な年で、イギリスではザ・フーがデビューし、キンクスがチャートを賑わし、アメリカではザ・バーズが登場。ビートルズは独創性を極め『ラバー・ソウル』という革新的なアルバムを発表。そしてローリング・ストーンズは『サティスファクション』でチャートを席巻し、いよいよスターダムを駆け上がった年でもあります。
この本はそんな、輝く石ころのようだったローリング・ストーンズが唯一無二のダイヤモンドに変貌してゆく直前、最後の夏休みを捉えたようなノスタルジックな写真集です。概要についてはrovakk musikkさんのページやポッドキャストに詳しいのですが、南カリフォルニアのフリーマーケットの箱の中から発見されたという一連の写真は、誰が撮影したのかいまだにわかっていないとのこと。
褪せたプリントの淡く儚い色合いもたまらないのですが、特筆すべきはやはり彼らの無防備な表情。あどけなささえ感じるミック・ジャガーや、尖っているけど繊細なキース・リチャーズの瞳。飾り気のないチャーリー・ワッツの仕草、大人の落ち着きも感じさせるビル・ワイマン、そして掴みどころのない存在感のブライアン・ジョーンズ。6人目のストーンズと呼ばれていたイアン・スチュワートの姿も見られます。
メンバーをこんなふうに目近に撮ることのできた人間は誰なのか?
それはとても興味深い謎ですし、この北米ツアー中の滞在先ホテルで書かれた1曲が彼らの運命を転がしていったかと思うと、プールサイドで笑いあう無邪気な季節がより尊いものに感じられます。
ロックスターがまだ石ころだった時代をさりげなく象徴するような、特別すぎない装丁も魅力。エンボス加工されたカバーを外すと出てくる、ヘアスタイルをなぞったシンプルな線画(似髪絵??)がチャーミングで、ただのノスタルジーに終わらせない余韻の残る一冊になっています。
それにしても、この写真の撮影者は誰なのかミックやキースに尋ねることはできないのでしょうか。巻末のエッセイではある女の子の存在に触れられているのですが、謎は謎のままで残しておくことも必要なのかもしれません。
rovakk musikk店主のpodcastでは、このミステリアスな写真集をより素敵にご紹介しています。
60年前の青春に思いを馳せながら、去りゆくこの夏を楽しみつくしましょう。
Artwork: -
Format: Book, Softcover
ISBN : 9780989785921
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文・写真 / 荒澤文香 fumika arasawa デザイナー
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WALLFLOWER CATALOGUE(ウォールフラワー・カタログ)
日々の壁際に花咲くデザイン心ゆさぶるアートワークの数々をデザイナーの荒澤文香さんが毎回1 点ずつご紹介。
毎月1回。2度目の二十四節気のタイミング(20日前後)で更新予定です。
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