![[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 018. | Vashti Bunyan - Lookaftering (Expanded)](http://rovakk.com/cdn/shop/articles/18.jpg?v=1742442247&width=2000)
[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 018. | Vashti Bunyan - Lookaftering (Expanded)
雪原から春の空へ
「無人島に持ってゆきたいアルバムを10枚挙げよ」と言われたなら、私はVashti Bunyanの1stと2ndを外すことはできないでしょう。
1stアルバム『Just Another Diamond Day』を最初に聴いたのは éclairのさおちゃんの家だったか、大学時代の友人の七重ちゃんの家だったか記憶は曖昧だけれど、すっかり虜になった私もリイシュー版のCDを愛聴していました。
1stの中古盤がレコード屋さんで高額で取引される“伝説”のSSWが新譜を発表するなんて想像もしなかった2005年。思いがけず届けられた2ndアルバム『Lookaftering』は、35年前とほとんど変わらない消えいりそうな儚い歌声、若手ミュージシャンとの共同作業による研ぎ澄まされた音づくりが印象的で、現在進行形の“伝説”に心が震えたものでした。冬の白い曇天に舞う雪のように繊細に重ねられた歌と音だけれど、悲しみも傷も抱えたままいつでも初心に戻れる清らかな強さも感じました。
その『Lookaftering』のリリース20周年とVashtiの80歳を祝う形でリリースされたのが本作です。2枚組のC〜D面には、アルバム制作前のデモ音源やライブバージョンが収録され、Vashti本人やプロデューサーのMax Richterらによる回想テキストと一緒に楽しむことができます。
Vashtiは大好きな方も多く、作品について私があらためて語ることもないので今回はアートワークについて触れたいです。
本作、特にLPが素晴らしい点は、Vashtiの娘であるWhyn Lewisのペインティングを12インチのサイズで鑑賞できること。アルバムを象徴するような兎の細やかな毛並みの筆遣いを確かめるのはもちろん、2頭の犬が表紙のブックレットに収められた一連の作品を画集のように楽しむことができます。手持ちのCD(2005年)には掲載されていなかった魅力的な作品ばかり。現実とファンタジー、神と人間、光と闇のあいだを橋渡ししてくれる動物たちの光を宿した聡明な瞳は、自分のなかにある曖昧な畏れなどの飼い慣らせない感情に静かに寄り添ってくれるようです。
今回のジャケットはタイトルも削ぎ落とされ、オリジナル盤でオフホワイトだった背景色は淡いブルーに変化。冬の雪原から春の淡い空へと、ウサギが跳ねてゆくようにも見えます。
悲しみや諦念を携えたままでも希望に向かえるやさしさと強さを携えて。
無人島にレコードプレーヤーまで持っていけるのかわからないけれど、このアルバムと絵はお守りになりそうです。
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文・写真 / 荒澤文香 fumika arasawa
デザイナー
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