![[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 017. | David Hockney - The Arrival of Spring, Normandy, 2020](http://rovakk.com/cdn/shop/articles/17_653bd097-74dc-41ae-9db7-b744df3cbe54.jpg?v=1739842336&width=2000)
[WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 017. | David Hockney - The Arrival of Spring, Normandy, 2020
"Do remember they can't cancel the spring."
2020年のことは忘れたくても忘れられない、という方は多いのではないでしょうか。
パンデミック下、家族や友人たちと会うことも移動の自由も制限され、美術館や映画館など人の集まる場所は閉鎖された日々。得体の知れないものに脅かされながら、日常というものの儚さや尊さに想いを馳せていたものでした。
絶望と閉塞感が蔓延していた2020年の春、デヴィッド・ホックニーはフランス北部のノルマンディーに居て、アートに希望を見いだすように風景を描きつづけました。その時のシリーズを2023年の東京都現代美術館での展覧会でも観ることができたのですが、黄緑色の大地に芽吹く春の喜びに溢れた色彩は、その場で一緒に眺めているかのように眩いものでした。
人類がどのような状況でも、日はのぼり、植物は芽吹き、風がざわめき、木漏れ日が揺れ、雨が降り、花が咲く。春の訪れを止めることは誰にもできません。そして春に心が浮き立つことも、その美しさに胸がいっぱいになることも誰にも止めることはできません。
iPadをキャンバスに、デジタルのブラシで描かれた作品群は、ホックニーの心を揺さぶり、記録せずにはいられなかった生命の輝きそのもの。技法やツールが何であろうと、美しいものをいかに美しく表現するか?巨匠たるものはそのことにずば抜けた才能があるのだと、当たり前のことに感動を覚えます。美しい風景画を拡大すると見えてくるのは、パソコンの画面で見覚えのあるデジタル由来のストロークやスタンプ跡。「神は細部に宿る」というけれど、ディテールがどのようであろうと、美をすくいあげる天才=神なのでした。
個人的にはデジタルよりもアナログな作品を好みますが、ホックニーに関しては別。年齢を重ねてから出会ったデジタルツールの使いこなし方、それを自由に楽しんでいることにも希望を感じたりします。人生の春は求める人のもとに何度でもやってくるのでしょう。
愛すべき風景の作品集は、本としても最高です。印刷では色が沈みがちなデジタルの鮮やかな色調はできるかぎり忠実に再現され、iPadサイズで角丸加工が印象的な判型も、この作品集をホックニーだから生み出せた特別なアートブックにしています。
春の光がこぼれるような一冊を眺めながら、あと少し、信州の春を待ち侘びようと思います。
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文・写真 / 荒澤文香 fumika arasawa
デザイナー
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