• [WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 011. 『戦火のなかの子どもたち』

    [WALLFLOWER CATALOGUE] FILE 011. 『戦火のなかの子どもたち』

    絵本だから伝えられること

    絵本の面白さは、子ども向けにとどまらない表現の奥深さにあると思う。
    どのような絵で見せ、どのような言葉を選び、どのような構成、仕様にするのか…
    よい絵本をつくるには、絵を描けること(純粋な絵でも、デザイン的なモチーフでも)のほかに、編集者の客観性や、詩人の研ぎ澄まされた言葉、そしてメッセージが必要になる。そうして生まれた一冊の絵本は、難しい言葉がたくさん並ぶ書物よりも雄弁で心に残るものだったりします。

    絵本は必ずしも子どものためだけのものではないけれど、絵本作家として知られる方のほとんどは、子どもの幸せと健やかな成長を願う本づくりをされているように思います。

    岩崎ちひろさんもそのお一人。多くのすぐれた作品を残されています。
    子どもはちひろさんの描く絵の中に自分の姿を見つけると、笑ったり戸惑ったり悲しんだりすることを肯定してくれる包容力にほっとするのではないでしょうか。大人はかつての自分を見つけては、子どもが子どもでいられることの尊さを噛みしめます。そして、水彩絵の具の夢みるような色と滲み、おしゃまな子どもの表情や仕草ひとつひとつの芸術的な輝きと、奥にある平和への願いに胸を打たれるのです。

    今回ご紹介したいのは、岩崎ちひろさんの遺作となった絵本『戦火のなかの子どもたち』
    ちひろさん自身が体験した第二次世界大戦と当時のベトナム戦争を重ねながら、戦火のなか生きてゆかざるを得ない子どもたちに心を痛めた記憶のような呟きのような、言葉とイメージで紡がれた絵本。

    子どもの愛らしい姿や自然を描いてきたちひろさんが最後に残しておきたかったのは、叶えられなかった平和への祈りなのでしょうか。

    幼いまま殺されたり、親や兄弟を亡くした子どもたちの姿は、パレスチナやシリア、ウクライナ、スーダン… 現代の占領地・紛争地でいまだに続いている光景であることが残念で、悔しく思います。

    美しいけれど哀しい赤いシクラメンの花に魅せられるほどに、子どもが子どもらしく当たりまえに生きられる世界にしなくてはと思います。平和を願うこの作品が、普遍的なものではなく過去のものとして愛されるように。

    「表現」の現場の片隅にいる大人として、私も、できることを。

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    岩崎ちひろさんの没後50年の今年、ちひろ美術館では「あそび」「自然」「平和」の3つをテーマにした展覧会がひらかれています。「平和」をテーマにした「みんな なかまよ」では、平和に関する「問い」の答えを、自分の言葉やインタラクティブな展示作品と遊びを通して考えてゆきます。9月1日まで安曇野で、10月12日からは東京で開催。
    絵本『戦火のなかの子どもたち』もその中で取り上げられています。


    いわさき ちひろ ぼつご 50ねん
    こどものみなさまへ

    「みんな なかまよ」
    安曇野ちひろ美術館
    6月8日(土)〜9月1日(日)

    ちひろ美術館・東京
    10月12日(土)〜2025年1月31日(金)

    https://chihiro.jp/2024kodomo/

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    文・写真 / 荒澤文香 fumika arasawa
    デザイナー

    フリーランス ⇄ 会社勤務、ときどき友人たちのお手伝いもしています。
    2024年 松本に移住。

    Instagram: @fumika

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    岩崎ちひろ 作・絵 - 戦火のなかの子どもたち 
    Artwork: 岩崎ちひろ
    Format:   book, hard cover
    ISBN: 9784991291012  
    Link on rovakk musikk : https://rovakk.com/products/chihiro-senkanonakanokodomo-new


    WALLFLOWER CATALOGUE(ウォールフラワー・カタログ)
    日々の壁際に咲く、デザイン心ゆさぶるアートワークの数々を、
    デザイナーの荒澤文香さんが毎回1 点ずつご紹介。
    毎月1回、2度目の二十四節気のタイミング(20日前後)で更新予定です。
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